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データで見る児童養護施設退所者の今 〜求められる支援とは〜

認定NPO法人ブリッジフォースマイル

この記事について

いつもarigatobankアプリで様々な企画へ支援をくださり、ありがとうございます。今回は、支援先の1つである認定NPO法人ブリッジフォースマイルの「全国児童養護施設 退所者トラッキング調査2023 報告書」について代表の林さんにお話を伺いました。児童養護施設退所者が抱える問題をデータで知り、私たちにできることを考えてみませんか。

「全国児童養護施設 退所者トラッキング調査2023」について

―― 今回の調査について、概要の説明をお願いします。また、調査結果からどのような問題が読み取れるのでしょうか?

「『退所者トラッキング調査2023』は、2020年から10年の計画でスタートした調査です。今回は、全国47都道府県にある558の児童養護施設にアンケートを送付し、129施設(2597人分)の回答が得られました。退所者の進学・就労の実態、支援制度の利用状況、住まいの状況、親族との関係など、さまざまな側面から質問し得られた回答を報告書にまとめています。調査で見えてきた問題の例を1つ挙げると、退所者の1年以内離職率は5割程度で、1年待たずに仕事を辞め、年々正社員率が下がってしまっているというデータがあります。退所後も安定した生活を送ることが望まれますが、生計を維持するうえで離職率の高さは大きな問題となっています。」

―― 退所者に対する一般の認識と、実際の退所者の現状にギャップはありますか? 実際によく聞く声などがあれば教えてください。

「18歳は大人なんだから努力で何とでもなるだろう、という風に思われることです。 実際に、自力で奨学金を得てなんとか頑張ってきたという人もいる中で、そのように思われがちですが、18歳までの育ちの中で、様々な事情から十分な養育を受けられないで育ってきた子どもたちがいます。同じ18歳でも、虐待のトラウマや教育の中断など、いろいろなマイナスの状況を抱えながらのスタートになる子どもがいるのは、 なかなか理解されていないと思います。」

データでみる児童養護施設退所者の現状

―― 退所者が抱える問題の認識が一般に広まっていないということですね。調査結果から見えた退所者の現状と課題について、教えてください。18歳での自立にあたり、親を頼れない子ども向けには資金面で各種の支援制度があり、これらの利用率はどの進路に進む場合でも増加傾向にあるようです。支援は行き届いていると言えるのでしょうか?

進路別支援制度の利用有無(満 18 歳 3 月末時点の進路別)2020 年度~2022 年度計 vs 2017 年度~2019 年度計 比較 (図表 5-1-2)

「はい、措置延長や福祉系ホームへの入居・奨学金 (日本学生支援機構給付型)・ 自立支援貸付金など、自立時に利用できる支援制度があります。過去3年と比べると、いずれの進路でも利用は拡大しています。一方、利用条件の問題や手続きの煩雑さから、利用に至らないケースも見られます。また、金銭管理においては、特に継続的なサポートの必要性を感じています。施設にいる間はお小遣い帳程度の金銭管理の機会はあるのですが、一人暮らしの金銭管理となると、やりくりが難しく借金を抱える子が少なくありません。先進的な施設では、奨学金の管理をサポートする取り組みがあったりするものの、全体では金銭管理についてのフォロー体制が不足しています。」

―― 冒頭で触れた就労状況の問題として、高校卒業直後に正社員就労した人のうち、1年3か月後には50.6%が正社員から離職という高い離職率がデータで示されました。何が原因なのでしょうか? また、解決へのアプローチにはどのような取り組みがありますか?

高校卒業直後に正社員として就労した施設生活者の現在の雇用状況(報告書 p.18図表4-2-2)

「原因としては、高校での就活が1回の見学や条件面のみで就職先を選択してしまうなど、適職マッチングや就労への動機付けに問題があると思われています。こうした問題に対し、ブリッジフォースマイルでは施設在籍中の仕事体験の機会提供に力を入れています。具体的なイメージを持つことで、実際とのギャップを埋めて離職率を下げるという直接的な狙いの他に、体験を通して職業に対しポジティブなイメージを持つことで、キャリア実現のために大学や専門学校への進学を目指すなど、進路選択のスイッチが入りやすくなるという効果があります。このように、将来に希望が持てるような働きかけが、対策として求められていると思っています。」

児童養護施設退所者への支援と課題

―― 児童養護施設退所者への国全体の支援状況と、課題となっていることがあれば教えてください。

「課題としては、急速な変革に伴い、格差が拡大するのではないかという点です。改正児童福祉法の施行により、来年4月から全国で退所後の支援が義務化されるのですが、実行は地方自治体に委ねられ、さらに委託事業となるため支援の実態がどうなるかは不透明です。結果として、金銭問題や、健康問題などを抱えた相談者に対し、具体的な支援策がない場合も多く手落ちになってしまうのではないかと。国としては社会的養護のアフターケアは拡充方針ですが、自治体間・出身施設間で受けられる支援に差が出てきそうなところを不安視しており、現場の実行について直近の課題になると思っています。」

―― ブリッジフォースマイルではどのような退所者支援を行っていますか?

「まず、居場所支援です。退所者の方がいつでも気軽に立ち寄って、食事したり会話したりするような場を設けています。困った時に相談する、もっと手前の場所として人間関係を築けるように、居場所運営をしています。自立ナビゲーションというマンツーマンで退所後の自立を伴走するプログラムでは、月に1回時間を設けて様々な相談事をできるメンターのような役割をしています。他にも各種助成事業の紹介やイベント・セミナーの開催、観劇などのイベント招待の仲介などを行っており、こうした支援についての情報発信にも力をいれています。また、自立時の生活必需品のプレゼントを仲介する『トドクン』というサービスも提供しています。」

―― 一般の方々には、どのような支援を期待していますか?

「まずは、社会的養護について知り、親を頼れないが故に、相談できる大人たちが周りにいることの重要性を分かってほしいです。問題を抱える子どもに気づき、声をかけられる大人が増えると状況は変わってくると思います。参加にあたり事前の研修が必要ですが、ボランティアとして活動することも個人で出来る支援です。企業様でしたら、子どもの職業選択支援として職業体験の機会提供をぜひお願いしたいです。もちろん、寄付でのご支援も大変助かります。
最後に、ブリッジフォースマイルとしては、啓発活動にも力を入れていて、『コエール』 というスピーチイベントを開催しています。こちらも是非知っていただきたいです。社会的養護の当事者が、過去の経験をスピーチするというプログラムで、YouTubeで動画を観られます。ぜひ、当事者の声を聞いてみてください。」

『コエール 2023』親を頼れなかった当事者たちのスピーチの様子

インタビューご協力

林 様(代表)

支援団体

認定NPO法人ブリッジフォースマイル
虐待などで親を頼れず児童養護施設や里親家庭などで暮らしている、また暮らした経験のある子どもたちが、笑顔で暮らせる社会を目指して、2004年から活動しています。社会に巣立つ時に直面する壁を乗り越え、未来に向かう勇気を持てるように、一人暮らしの準備やキャリア形成のためのセミナー、居場所や住まいの提供、伴走支援、就労・転職サポートなど、子どもたちの自立のためにさまざまな支援を行っています。

団体ホームページ
全国児童養護施設 退所者トラッキング調査2023 【詳細版】
『コエール』のスピーチ動画

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